漢方薬は、中国伝統医学の一つで、中国伝統医学の理論に基づいて、動物、植物、鉱物、菌類などの天然の素材をいくつか組み合わせて作られた薬物です。
現在では、せんじ薬とエキス剤があります。せんじ薬は、決められた分量・割合で配合された生薬を煎じて(煮出して)その汁を飲むものです。エキス剤は、煎じた汁をインスタントコーヒーのように顆粒状や粉末状にしたもので、アルミパックに包装されています。
エキス剤は、医療保険を使って医療機関で処方されます。
冷え症で使われる代表的な漢方薬をご説明します。
1.真武湯(しんぶとう)
対象者
体力が衰え、全身倦怠感、めまい、浮腫、下痢などを伴う冷え症の人。
構成生薬
*附子(ぶし):代謝を促進して冷えをとり、下痢などの水滞症状を改善する。
*芍薬(しゃくやく):鎮痙・鎮痛の働きにより腹痛を緩和する。
*蒼朮(そうじゅつ):下痢などの水滞症状を改善する。
*茯苓(ぶくりょう):下痢などの水滞症状を改善する。
*生姜(しょうが):胃腸の働きを活発にする。
効能と特性
*新陳代謝を高める(補陽)作用のある附子で身体を強く温めて水を処理して、水の流れをよくする蒼朮・茯苓を使って下痢、めまい、浮腫など、滞った水の悪さする症状(水滞)を改善する。新陳代謝の低下と水の滞りによる冷えを改善する。
*冷えることで起こる下痢や浮腫を、新陳代謝を高めて、温めながら水の流れを良くする附子と、水の滞りを治す蒼朮と茯苓が協力して改善しようとするのが主目的である。そのため、新陳代謝が低下し、全身倦怠感、めまい、下痢などを伴う、手足が冷える場合に用いる。
2.当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
対象者
虚証(元気がない)で顔色が悪く、冷えが強く浮腫やめまいのある人。
構成生薬
*当帰・川芎(せんきゅう)・芍薬:月経を調節し、鎮痙の作用を持つため、月経痛などの腹痛の改善も期待できる。
*蒼朮・沢瀉・茯苓:水の滞りによって起こるめまいや浮腫などの症状を改善させ、さらに水の滞りによる冷えを改善させる。
効能と特性
*貧血などを改善する補血剤である四物湯(しもつとう)と浮腫や口渇などの水滞を改善する四苓湯(しれいとう)を合方・調節した方剤。
*水分の停滞(すいたい)があるためにむくみやすく、めまい、頭痛・頭重感などがあり、車にも酔いやすい人、また補血剤が含まれることから顔色不良、皮膚の乾燥や荒れ、あかぎれを起こしやすい人。水滞からくる冷えが適応。
3.八味地黄丸(はちみじおうがん)
対象者
疲労倦怠して、トイレが近く、腰痛を訴え、冷えがあるにも関わらず手足のほてりを感じるような人。
構成生薬
*地黄(じおう):補血、滋陰し、腸の働きをよくして便通を改善する。
*牡丹皮:清熱(熱症状を抑える)の作用があり、熱感を改善する。
*茯苓・沢瀉:尿の出が悪い(尿不利)、口渇、耳鳴り、冷えといった水の滞りによって起こる症状を改善する。
*山薬(さんやく)・山茱萸(さんしゅゆ):三薬は下半身の強化に、山茱萸は、下半身の引き締めに作用する。
*桂皮(けいひ)・附子:特に下半身の代謝促進により、エネルギー量の増加を促す。この2種類の熱薬により全体として温める作用を発揮する。
効能と特性
*身体を潤し(滋潤)、冷やす機構(陰)と温める機構(陽)が存在し、陰陽の機能がともに低下している場合に用いられる。身体の諸機能の低下があり、疲労、倦怠感が著しく、特に下半身の機能低下による腰痛、足腰の冷え、排尿障害が現れた場合に用いる。
*温める機能の低下(陽虚)を改善させる附子・桂皮の組み合わせがあり、地黄・山薬・山茱萸は滋潤や栄養に働く(滋陰薬)。
4.桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
対象者
冷えのぼせのある便秘症で月経困難症の人。
構成生薬(調胃承気湯+桃仁・桂皮)
*大横(だいおう)・芒硝(ぼうしょう)・桃仁(とうにん):便秘を改善する。
*大横・桃仁:血液循環を改善(瘀血を改善する)。
*桂皮:エネルギーである気を巡らせ冷えのぼせを改善するとともに、大横・桃仁の血液循環改善作用を助ける。
効能と特性
*調胃承気湯(ちょういじょうきとう)に血の滞りで生じる月経不順、月経困難症(微小循環障害:瘀血)を改善する駆瘀血薬の桃仁と、エネルギーである気を正常に巡らせ、のぼせなどを改善させる桂皮を組み合わせることで効率的に瘀血を改善させる。気の滞りと血の滞りによる上熱下寒の冷えを改善させる。
*気が頭にのぼってしまったために、下肢が冷えた状態(上熱下寒)の人に適応。
5.人参湯(にんじんとう)
対象者
虚弱でお腹に冷えを訴える、みぞおちにつかえ感のある人。
構成生薬
*乾姜(かんきょう):消化管の血流を増加させることで胃腸や全身を温め、機能を回復させる。
*人参:元気や気力のない虚弱な状態を改善する。
*人参・蒼朮・甘草:胃腸機能低下を改善する。
効能と特性
*胃腸機能が低下することで食物の消化吸収が阻害され、エネルギーである気が作られずに冷えを生じた場合に適応。
*冷えることで起こる胃腸カタル、胃アトニー症に用いられる。
6.当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅしょうきょうとう)
対象者
虚弱体質で冷え症、冬にはしもやけができやすい人。
構成生薬
*桂皮・生姜・大棗(たいそう)・甘草:お腹の調子を整え、気を作れるようにし、身体を温める。
*芍薬・甘草:筋痙攣を抑制し、お腹がひきつり痛む状態を改善する。
*当帰:月経異常(瘀血)を正し、貧血など(血虚)をかいぜんする。
*細辛(さいしん):痛みを抑える働きがあり、お腹(裏)を温めつつ痛みを和らげる。
*呉茱萸(ごしゅゆ):鎮痛作用があり、身体を温め、のぼせなどのエネルギーである気が頭に上った状態を改善する。
*木通(もくつう):消炎・利尿作用が強く、血液循環を改善する。
効能と特性
*桂枝湯(けいしとう)の構成生薬を含むが、裏寒(体内の冷え)を改善する。
*ほとんどの構成生薬が温めるものであり、全体として身体を温める作用がある。また、循環血液量を増加させ、うっ血を改善させる。
7.加味逍遥散(かみしょうようさん)
対象者
多愁訴あるいは愁訴が移り変わる更年期症候群や月経不順がある人。
構成生薬
*芍薬・当帰:顔色が悪い、貧血などの改善する補血薬。
*甘草(かんぞう)・生姜・蒼朮・茯苓:胃腸機能を強化、気虚・水滞による冷えの改善。
*柴胡(さいこ)・薄荷(はっか):気が晴れないなど気のうっ滞した状態を改善する理気(気を整える)薬
*牡丹皮・山梔子(さんしし):血の滞りを改善させ、清熱の作用のある牡丹皮と熱を去る清熱皮である山梔子により、イライラ・のぼせなどの熱症状を改善させる。
効能と特性
*逍遥散(しょうようさん)の証(栄養状態、元気ともに低下した虚弱者で、うつうつとした気分のうっ滞)に「イライラ・怒りっぽいなどの熱症状」が加わった場合に適用。
*疲れやすく、頭痛、冷え・のぼせ、肩こり、イライラなど、愁訴の多い血の道症や更年期症候群によく使われる。
*水の偏在(水滞)を改善する蒼朮と茯苓が含まれているため、むくみにも有効。水滞と疲れやすいなどの気虚から生じる冷えも改善させる。
8.桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
対象者
冷えのぼせのある月経困難症の人
構成生薬
*芍薬・桃仁・牡丹皮:血液循環を改善する。この3生薬で瘀血を去り、瘀血に付随して起こるむくみなどの水の滞り(水滞)を茯苓(利水薬)と他薬とが協力して改善。芍薬は、貧血など(血虚)を改善する補血作用を持つ。
*茯苓:むくみなどの水の滞りを改善する。茯苓は補気にも働く。
*桂皮:気の流れを改善し、芍薬・桃仁・牡丹皮の血流改善作用を助ける。桂皮は気を巡らせるもので(理気)、この生薬があることで、血の巡りも改善し、のぼせなど(気逆)の上熱下寒を改善。
効能と特性
*典型的な、血の滞り(瘀血)による症状(月経不順、月経困難、帯下、痔疾患、肩こり)を改善させる(駆瘀血剤)の作用。
*血をスムーズに巡らせるために必要な生薬がうまく配合されている。、冷えのぼせ、イライラ(気逆)がり人の月経不順、月経困難症(瘀血)、上熱下寒による下肢の冷えに適応。
9.苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
対象者
めまい、ふらつき、動悸のある足の冷たい人
構成生薬
*桂皮:気を巡らせる。
*茯苓・蒼朮:水の滞りを改善する。
*茯苓・蒼朮・甘草:胃腸機能を改善する。
効能と特性
*エネルギーである気が頭に突きあがり(気逆)、それに伴って水も頭の方で滞った状態(水滞)を改善する。
*桂皮で、気の滞りを改善し、茯苓・蒼朮で水の滞りの改善する生薬構成となっている。
*胃腸機能を整える茯苓・蒼朮・甘草が、胃腸機能が悪いために気が補充できず、巡らせることができない場合にも適用できる。
*水も巡らないため、水の偏在で起こる頭痛、めまい、身体動揺感などの症状(水滞)や尿の出が悪い(尿不利)または頻尿などが現れ、エネルギーである気がうまく巡らないために起こる手足の冷えによい。
10.温経湯(うんけいとう)
対象者
手掌がほてり、月経困難を訴える下腹が冷える人
構成生薬
*当帰・芍薬:皮膚の乾燥、栄養障害など(血虚)を改善する。
*川芎・牡丹皮:月経不順など血液の滞り(瘀血)で生じる症状を改善。更年期症候群などに適用。
*人参・半夏(はんげ)・生姜・甘草:胃腸機能を整える生薬(補気健脾)で、元気つけるための補薬的要素が強い。
*当帰・芍薬・麦門冬(ばくもんとう)・阿膠(あきょう):自ら進退を冷やす機能低下(衰弱による熱:虚熱)の改善目的で配合。
*麦門冬:滋潤作用があり渇きを潤す。
*阿膠:止血作用もあり、不正性器出血などにも応用される。
効能と特性
*当帰・川芎・桂皮・生姜・呉茱萸と身体を温める生薬で、冷え症向けの作用。
*寒証で、元気がなく(気虚)、顔色が悪く(血虚)、一方で抹消循環障害もあり、末端を中心に虚熱からほてりを生じる月経不順や冷えに適応がある。
11.五積散(ごしゃくさん)
対象者
寒冷と湿気により痛みが増強する人
構成生薬
*白芷(はくし):血行を改善して冷えをとる。
*桔梗(ききょう)・枳実(きじつ):腸蠕動を促進するなどの理気剤で、腹部膨満を改善。
効能と特性
*貧血などに用いる四物湯(血積)、悪心・嘔吐などに用いる二陳湯(痰積)、気分が塞いでいる時に用いる半夏厚朴湯(気積)、胃もたれなどに用いる平胃散(食積)、かぜなど悪寒を改善する麻黄湯(寒積)が含まれる。
*五方剤が含まれ、これら五積の治療ができる為、五積散を名付けられた。
*以下の方意も考えられている。
苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう):腰の冷え、腰痛
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):めまい、動悸、頭痛
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):貧血、月経不順、更年期症候群
(血虚、瘀血)、むくみ、 頭痛、頭重、めまい(水滞)など
参考図書:症候別 漢方治療論 冷え症 石毛 敦・西村 甲 編著 南山堂
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