養生としての認知行動療法

1.認知行動療法とは

認知行動療法は、認知(自分の考え方)の癖に気づき、その認知を変え、行動を促し、気持ちを楽にさせ日常生活を少しでも快適に過ごせるようにする心理療法で、うつ病を始め不安障害など心の病だけではなく、健康な人でも生きづらさやストレスに悩んでいる人にも有効な療法です。

 

精神障害で医師にかかられている方は、医師や臨床心理士、カウンセラーなどの専門家と面接して行うことが望ましいですが、養生としてご自身で行うことも可能です。

2.認知行動療法の目的

私たちが、日常生活でさまざまな出来事や状況を通してつらい、苦しい、悲しい、怒れるなど不快をもたらす感情を抱くのは、その出来事や状況そのものが私たちを不快感をもたらすのではなく、そのできことや状況に対して、頭の中にある何らかの思考(認知)から不快感を導き出し、その思考や感情にともなって行動するという習性が身についてしまっています。

 

これらは、幼い頃に体験したできごとや状況から自分でそう考えてしまった思考(認知)が記憶され、大人になっても同じような体験をするたびに、その考えが強化され、信念として潜在意識に埋もれてしまった状態にあります。

 

認知行動療法は、不快な感情に焦点をあて、その背後にある思考を明確にして、その思考が本当なのか検証して、過去の体験を基に反証して、その思考を客観的な思考に正すと同時に、行動を起こしてゆきます。

 

さらに不快感をもたらす信念を明確にして、その信念を少しずつ中立的なものに正すことで、日常生活を快適に過ごせるようにすることが目的です。

3.気分と自動思考を見つける

認知行動療法のやり方は、専用の日誌をつけることをお勧めします。当院の感情・自動思考日誌をご参考にしてください。

 

①まず自分のネガティブ(不快)な感情、気分に気づき、それを言葉にして、どれぐらい強い感情なのか数値化します。

 

例えば、自分の感情が「怒り」「憂うつ」「うんざり」「失望」など複数を感じた時、100%を最大値としてパーセントで90、80、70、60のように感情の強さを数値化します。

 

②その背後にある思い込み(以下自動思考)をいくつか言葉で記入し、その中で一番心にヒットしたものに○をつけます。○をつけたものはホットな自動思考と言います。

 

③その感情、認知を生み出した状況を記入します。

 

④その時、体調がすぐれない時にはその体調を記入します。

 

 

*言葉にするとき、気分なのか思考なのかわからないことがあります。区別するポイントは、気分は「恥ずかしい」、「憂うつ」、「がっかり」など一言で表すことができ、思考は、「私はダメな人間だ」、「私は価値のない人間だ」など文になります。

 

以下は、気分を表す言葉です。参考にしてください。

憂うつ、怒り、恥、心配、無我夢中、不満、うんざり、誇り、愛情、不安、苛立ち、罪悪感、神経質、興奮、失望、傷ついた、楽しい、悲しい、困惑、怯え、パニック、激怒、屈辱感、怖い、快いなど。

 

*感情の背後にある自動思考は、その場でパッと浮かぶ思考ですが、すぐに消えてしまいます。感情が湧いた時に必ず背後には、自動思考があります。それに気づき、言葉にすることが大切です。

 

*自動思考も感情と同じように複数あります。その中で心にヒットするもの(ホットな自動思考)が必ずあります。その思い込みが感情と強く結びついています。

4.代表的な認知のゆがみを知る

ネガティブな、つらい気分を生み出す自動思考は、特有のパターンがあります。特徴的な認知のゆがみを「推論の誤り」と言います。推論の誤りは以下のものがあります。

1.全か無か思考

極端な完璧主義的で、物事を白・黒だけでその中間がない思考パターン。

 

例:たまたまテストで90点だった。それを知って気分が落ち込んだ。

⇒テストは必ず100点でなければ価値がない。

2.一般化のし過ぎ

一つでもよくないことを経験すると、それをすべてのものごとに当てはめてしまう思考パターン。

例:知り合いの女性にメールを送ったが返事が返ってこなかった。そのためにがっかりした。

⇒自分は、女性に嫌われるタイプだ。

3.心のフィルター

たった一つの良くないことばかりに目がいってしまい、良いところがみえなくなっている思考パターン。

 

例:妻と生活していて、洗濯や子供の面倒をみてくれるが、片づけが全然できない。

妻に失望している⇒妻はいいところが一つもない。

4.マイナス化思考

すべての出来事に対して、マイナスの解釈をしてしまう思考パターン。

 

例:会社で大きなプロジェクトが成功して、上司から褒められた。全然うれしさがない。

⇒今回はみんなの力でできたもので私の力でなんてほとんどない。

5.結論の飛躍

根拠もないのに自分にとって不利で、悲観的な結論を出す思考パターン。

 

例:夫が出かけて帰りにメールをすると言っていたのに時間になってもメールが来ない。悲しくなった。

⇒夫は私を嫌っているんだ。

6.拡大解釈と過小評価

自分の失敗や短所は過大に考え、成功や長所は過小評価をする思考パターン。

 

例:夫に「洗濯物、いつになったらたたむの?」と指摘され、悲しくなった。

⇒私は、すべての行動が鈍いんだ。

7.感情的決めつけ

理性ではなく、感情をもとにものごとを判断してしまう思考パターン。

 

例:お店のチラシをポスティングで100軒やってみたが反応がなかった。がっかりした。

⇒ポスティングしても無駄だ。

8.すべき思考

「~すべきだ」「~でなければならない」と強く思い込んでしまう。自分で考えた

基準で自分を追い込む思考パターン。

 

例:妻が料理を全然しない。怒りを感じる

⇒女性なら料理をするのが当然だ。

9.レッテル貼り

「自分はダメな人間だ」というように、極端なレッテルを貼ってしまう思考パタ

―ン。

 

例:今日からウォーキングを毎日30分やろうと決めたのに3日坊主で終わってしまった。情けない気持ち

⇒自分は意思の弱い人間だ。

10.個人化

自分に関係がないとわかっていることまで、自分を関連付けて考えてしまう、よく

ことがあると、すべて自分のせいのように思える思考パターン。

 

例:団体競技で自分はミスをしないにもかかわらず負けた。

 

悲しい気持ち。⇒このゲームは私のせいで負けたんだ。

5.ヒットする自動思考に対してその根拠と反証を書きだす

ヒットする自動思考がわかったら、今度はその自動思考に対して、客観的な事実を基に根拠を考えます。これも書き出してください。書き出す時は長文にならないように、事実を簡潔にまとめます。

そして、その根拠に対して、反証を書きだします。できるだけ多くの反証を書きだすのがポイントです。時間がかかっても探してください。

 

反証が根拠に対して多ければ、自動思考にゆがみがあると判断し、事実にあった適応する思考(適応的思考)に変えます。

 

書き方は、当院の自動思考の修正その1.をご参考に下さい。

6.自動思考を変える習慣をつける

いくつかの自動思考への反論がスムーズにできたら、その日のうちに自動思考の修正を図る習慣を身に着けます。

 

書き方は、当院の自動思考の修正その2.をご参考にしてください。

7.行動によって新たな認知の効果を試す

適応的な自動思考を身に着けたら頭の中で何度も繰り返し、定着させることが必要です。そのためにメモ帳に適応的な自動思考を書いておき、つらくなった時にはそれを見るようにします。

 

さらに、適応的な自動思考を確証させるために行動を起こしてみます。勇気のいることですが、思い切ってやることが、新たなる認知のへの確信と自身が得られます。

 

①どんな行動をどのように変えるかの計画を立て、それを基に行動します。まずは、簡単なものから取り組みます。

 

②行動を取る為に、様々なアイデアを出してみる。その行動を以下の基準からすべて-5から+5で評価をつけます。

ア. 解決度:問題がきちんと解決しそうな行動ほど高得点

イ. 感情的好ましさ:気分がよくなりそうな行動をほど高得点

ウ. 時間・労力:時間や労力をかけずにすむ行動をほど高得点

エ. メリットがデメリットを上回るほど高得点

 

③行動の結果を思わぬ事態や反論に対していくつか予測しておき、それに対しての対処として自動思考も考えておくことで、安心して行動することができます。

 

④実際に行動を行った結果を振り返ります。成功するほど認知の確信度が高まりますが、失敗からも得られる情報もあります。

*望ましい結果に終わった場合:その行動を何度も繰り返し、新たな習慣にします。

*望ましい結果に終わったが、別の自動思考や感情でつらくなった場合、新たな自動思考の変容に取り組みます。

*望ましい結果が得られず、新たな認知に確信が持てない場合:行動の内容や難易度が適切であったか見直す。新たな行動プランで行動を実行する。

 

⑤行動することをつい先延ばしをしてしまう場合

ア. 実行したい行動を一取り上げ、先延ばし行動のメリット・デメリットを比較して自分にとっての利益と合理性を考えます。当院の先延ばしの行動:メリット・デメリット比較表をご参考にしてください。

イ. 手に負えない時は、活動をノートに細分化して記入してできることから実行します。

ウ. やる前とやった後の難易度、満足度を比較することで、難易度は、予想より低く、満足度は予想より高くなります。

 

⑥気分が悪く、どうしても実行できない時は、何でもいいから行動を起こすこと。一日の中で気分が楽になる行動を増やす工夫をして、つらい気分を徐々に軽くして行きます。

 

⑦不安や恥ずかしさでできない時は、不安の少ないものから行動したり、不安の少ない行動をしたり、友人、知人と協力して実行します。

 

8.自動思考からスキーマを見つける

不適切な自動思考の背後には、私たちが幼少のころから長年培ってきた、より根本的な私たちの信念や価値観である思考があります。それを「スキーマ」と言います。

 

このスキーマは、自動思考以上に意識に上ることがない存在です。そのスキーマこそが私たちの人生を苦しめている原因です。

 

スキーマに気づくためには、いくつか挙げた自動思考を並べてみて、共通点を見つける事です。スキーマは、自動思考と違い、「私は、無価値だ。」「人は平気で嘘をつく」「自分はお金持ちになれない。」など断定的で、短い文章で表現できます。

 

①スキーマには、自己、世界、将来の3つのスキーマがあります。

例 自己についてのスキーマ:仕事で成功しなければ価値がない。お金持ちでなければ幸せではない。

世界についてのスキーマ:世の中競争しなければならない。ライバルに勝たなければならない。

将来についてのスキーマ:自分は幸せになれない。自分は一生孤独だ。

 

②下向き矢印法で、自分への質問を繰り返すことでスキーマを見つけます。

 

ア. 自己、世界、将来に対して、つらい気分に関連した自動思考を一つ取り上げ、それに対して「この考えが正しいとして、それは私にとって何を意味しているのか?」と疑問を投げかけます。

 

イ. 出てきた答えに対して、さらに「この考えが正しいとして、それは私にとって何を意味しているのか?」と再び同じ疑問を投げかけます。

 

ウ. 答えが出てくるたびに「この考えが正しいとして、それは私にとって何を意味しているのか?」を断片的な言葉になるまで、繰り返し投げかけます。

 

エ. 断片的な答えは、とても「恐怖感」を抱くかもしれませんが、それが私たちをつらい思いをさせる核になるスキーマです。

 

下向き矢印法は当院の下向き矢印で非適応的スキーマを見つける表をご参考にしてください。

9.スキーマのメリット、デメリットを比較し、新しいスキーマを考える

自己、世界、将来に対して、スキーマを見つけたら、今度はそのスキーマに対して何が問題なのかを検証します。自動思考でメリット、デメリットを見つけたようにスキーマに対してもメリット、デメリットを探ります。

 

①考え付く限りの項目をたくさん書くこと。

②デメリットがある限り、そのスキーマは見直しの余地があることです。それを見直すことで今後の人生をもっと気分よく過ごせるようになります。

③その表を見ながらより柔軟で前向きなスキーマを考えます。非適応的スキーマは断片的な言葉になりますが、新しいスキーマは、長い文章となります。

 

スキーマのメリット、デメリットの比較は、当院の非適応的スキーマ:メリット、デメリット比較表をご参考にしてください。

10.新たなスキーマ(適応的スキーマ)を実感する

新たなスキーマを考えたら、それを心に定着させます。長い時間をかけ、しみついた古い非適応的スキーマは、そう簡単には入れ替わりません。時間をかけて定着させます。

 

①新たなスキーマを心に定着させるには、どんな些細なことでも、適応的スキーマの根拠となる事実を一日一行ずつ記録することです。これを最低3か月間続けます。

 

②古い非適応的スキーマが出てきたら、これまでの書いた適応的スキーマの根拠となる事実を記録した記録したものを読み返し、古いスキーマを捨てるように心がけます。

 

新たなスキーマ(適応的スキーマ)を記録するためには、当院の適応的スキーマの体験記録をご参考にしてください。

 

以上です。

認知行動療法は、時間もかかり、根気もいりますが、やって価値あるものです。

 

この認知行動療法を作成するにあたり、「図解 やさしくわかる認知行動療法」 監修 福井至

貝谷久宣 ナツメ社 を参考しました。

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